【産経新聞社】大阪甘味(スイーツ)図鑑(2012.5.26朝刊)

ジョエルの「淀屋橋ブッセ」

仏の伝統菓子 日本人好みに

大阪屈指のビジネス街・淀屋橋に店を構える「ジョエル」。オーナーパティシエの木山寛さん(50)はフランスでシェフパティシエを務め、本場で得た豊富な経験と知識をベースに、さらに日本人の嗜好(しこう)や味覚を意識したお菓子作りをすることで有名な職人だ。

「お菓子の基本『粉』『卵』『砂糖』の3つの素材は万国共通だが、日本人は『粉』のでんぷん質を使い分け、味わい分けることができる」と、木山さんは言う。日本人の「味わう」という行為は舌だけではなく、「食感」といわれる歯ざわり、歯応え、喉越し、そして口の中から鼻へ抜ける際の香りに至るまで、微細な感覚を持って成立する。この微妙な味の違いを判別できる能力が、それを使い分ける能力にもつながっている。

そんな“高等”な能力を持つ日本人が好む洋菓子とはどんなものなのか? 木山さんはこの命題に取り組み続けている。その一方で、「洗練された純粋なフランス菓子をもっと味わってほしい」との願いも…。

そこで昨年、日本人が好む生地の硬さ、クリームの水分量、全体の甘さのバランス-にピッタリはまるフランス菓子「淀屋橋ブッセ」を作った。

親しみやすい形と食べやすい味、そして食欲をそそる焼き色。「難しい説明がなくても、日々のおやつとして食べるお菓子なら、その味をきっと理解してもらえる。そこから徐々にステップアップして、本場のお菓子に挑戦してもらいたい…」

卵白をしっかり泡立てて細かな泡のメレンゲをつくり、これを卵黄に合わせた生地は、全卵を泡立てる生地よりもコシがあり、キメが細かくしっかり膨らむ。まるで赤ちゃんのほっぺのようなふんわり感。その滑らかな舌触りはシルクのようでもある。冷たいカスタードクリームが生地とともに喉を通る快感。ボリューム感も、おやつとしての存在価値を高める上では欠かせないポイントだ。繰り返し食べたくなる味わいと、満足感がこのお菓子の魅力だ。

オフィス街に構える店は地元密着型の店とは違う特性を持っている。買い物をした人がその店のお菓子に込められたメッセージを地元に持ち帰り、より多くの人へお菓子への理解や興味を深める可能性を秘めている。これまであまり興味を示さなかった人が、おいしいおやつとの出会いから、本物のお菓子の世界への扉を開くきっかけになるかもしれない。

(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)

【もうひとこと】
実はこのお菓子のベースは仏の伝統菓子「シャルロットポワール」と同じ。これが気に入った人はオリジナルも試してみては?

【住  所】大阪市中央区北浜4の3の1
【電  話】06・6152・8780
【営  業】午前11時~午後9時
(土曜・祝日は午後8時まで、日曜定休)
【最寄り駅】地下鉄淀屋橋駅

産経関西 スイーツ物語 2012.5.28
msn産経ニュース 2012.6.30.10:00