【産経新聞社】関西甘味(スイーツ)図鑑(2013.7.13朝刊)

御座候の「御座候」

「次こそ」が生む醍醐味

今川焼、回転焼、大判焼、太鼓饅頭(まんじゅう)…。全国津々浦々で見受けられ、大抵の店では目の前で実演販売されている定番の焼き饅頭である。

「御座候(ござそうろう)」は元々屋号だったが、常連客らが「御座候5個」「御座候10個」と注文するようになったことから、商品名にもなった。

姫路の工場ショップ店長、木須正吾さん(69)は50年以上も同社で御座候を焼くベテラン職人だ。「この店では注文を受けて、お客さんの顔を見ながら御座候を焼きます。最高の状態で食べていただきたいからです」と語る。

円形のくぼみが並ぶ銅製の型に「チャッキリ」という道具で生地を流す。その量は指先の感覚で調整。生地に気泡が出る前に手早く「アンサシ」に入れた餡(あん)を「アンベラ」で一つ一つ入れる。餡の量もまた指先の感覚に委ねられる。

道具を改良し、生地や餡を同量に配分することはそう難しくないはずだ。これを不要とする理由は、機械に勝る職人の手技にある。実演販売は開放的な空間が多く、季節や天候により室温や湿度が変動し、生地や餡などの材料の状態、銅版の温度など変動要素が非常に多い。これらの情報を瞬時に見極め、指先をコントロールするのである。

平成17年に新設された本社工場にはオリジナル製餡釜が導入され、炊き上げまで1つの釜で仕上げられるようになった。それでも、いくつもある釜を長い撹拌棒(かくはんぼう)を持った職人が回り、餡の状態を確認する。

焼き立てのサクッとした歯ざわりは、工場ショップならではの醍醐味(だいごみ)だ。熱々を手で割ると、こぼれ落ちんばかりの餡から湯気がたちのぼり、炊きたての香りがする。水あめを配合することにより、きれいな焼き色がつけられた薄い表面の皮に覆われているのは、真綿のように柔らかく焼き上がった生地だ。香ばしい生地と水分を含んだ餡が口中で混ざり合うと、それらが一体となった味になる。ほどよい甘さの豆のコクが味にコントラストをつけ、深い味わいとなってシンプルなお菓子に表情を与える。

「納得できる焼きは、1日に数個。『次こそもっと上手に』と意欲が湧きます」と木須さん。リズミカルな手の動きを見ながら、ワクワクしながら焼きあがるのを待つ。作り手とお客さんが直接会話できる実演対面販売が生み出した五感で味わうお菓子だ。

(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
「御座候」。赤あん、白あんがあり、ともに1個80円

【もうひとこと】「御座候」の工場見学バスツアーを企画しました。今月18日と24日です。問い合わせはサンケイ旅行会(電話06・6633・1515、日曜と祝日除く)。

御座候 工場ショップ
【住  所】兵庫県姫路市阿保甲611の1
【電  話】079・282・8338
【営  業】午前10時~午後5時(火曜、年末年始休み)
【最寄り駅】JR姫路駅

msn産経ニュース 2013.7.13 07:00
産経関西 スイーツ物語 2013.07.14 00:01