【産経新聞社】関西甘味(スイーツ)図鑑(2013.8.31朝刊)

浪芳庵の「わらびまん」

独特の食感は手作りの証し

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浪芳庵の「わらびまん」

浪芳庵(なみよしあん)は1858(安政5)年創業。大阪・ミナミの道頓堀川に架かっていた「浪芳橋」の名を冠した老舗の和菓子店だ。社長の井上文孝さん(44)は六代目「庵主」。3人兄弟の真ん中に生まれ、暖簾(のれん)の重みを感じることもなく自由に育てられ、大学へと進学した。

就職を意識しはじめた頃から家業に就きたいと思うようになり、父に跡継ぎになることを宣言。在学中から進んでアルバイトとして手伝い、現場で商品についての知識などを学んだ。そのまま自社に入るのも一案だったが、「将来はデパートへ出店しているような一流ブランドに」と考え、ノウハウを得ようとデパートに出店している企業を探し、和菓子業界は大手が少なかったため、洋菓子メーカーへ就職した。デパートの売り場で、販売、接客、在庫管理、商品陳列、包装など、さまざまなことを学んだ。バイヤーとの人脈もできた。「本当に一生懸命働き、そして仲間と徹底的に遊びました」と井上さん。

5年後に家業に。デパート時代の仲間が商談相手となった。デパートで短期間の催事出店の話があると、早速挑戦。「どうすれば売れるか、どんな商品なら売り場で目立つかを考えては実践し、お客さんの反応を見ては修正して…の繰り返しだった」と振り返る。「わらびまん」はそんな試行錯誤の中で誕生した。手ごろな価格で、持ち歩きやすく、しかも桶(おけ)のパッケージが女性好みでかわいらしく、手土産に最適。しっかりしたこしのあるわらび餅の中に、やわらかいこしあんがたっぷり入った饅(まん)頭(じゅう)だ。別添えのきな粉は香ばしく、抹茶はほんのりと苦味が利いている。わらび餅は、昔ながらの製法で職人が直火の銅鍋で丁寧に練り上げてつくることにより、絶妙の食感がうまれる。

冷んやりしたわらび餅の舌触りの心地よさが、こしあんのとろけるような速やかな口溶けによって加速。砂糖を加えない芳しいきな粉や抹茶のシンプルな味が、こしあんの甘味を共有することでひとつのお菓子として完成している。

平成23年、念願がかない、JR大阪三越伊勢丹への出店。こうした経歴から、母校から依頼され、「事業継承」をテーマに就職活動前の学生らに対し講演を行った。自社の事業継承は娘3人のうち小学6年の次女が手を挙げているそうだが、子供にプレッシャーをかけぬよう、あくまで自然体で静観しているという。その姿勢はまさに父親譲りだ。

(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)

「わらびまん」10個入り840円

【もうひとこと】もともとは洋菓子の方が好きだったという井上さん。和菓子の試食を毎日重ねるうち、今ではすっかり和菓子党になられたそうです。

浪芳庵

【住  所】大阪市浪速区敷津東1の7の31
【電  話】06・6641・1351
【営  業】午前10時~午後6時半(正月3が日休み)
【最寄り駅】大阪市営地下鉄大国町駅

msn産経ニュース 2013.8.31 10:00
産経関西 スイーツ物語 2013.09.01 07:27