【産経新聞社】~スイーツ物語~目にも楽しい「せんべい」 (2010.12.2 夕刊)

 「せんべい」と聞くと、しょうゆ味を思い浮かべるでしょうか? 実は和菓子屋さんで「せんべい」と言えば、小麦粉に砂糖を加えて型に流して焼いたものを指します。しょうゆ味のせんべいは、もちを切って乾燥させたものを焼いたり揚げたりしたもの、つまり「あられ」「おかき」と呼んでいます。さて今回紹介する「播彦」(東大阪市)は嘉永2(1849)年創業の「せんべい」の老舗。この時期は、お正月用に干支の入ったせんべいを焼くのに大忙しです。
 代表格のブランドは、「花はんなり」。季節の風物を表面に描き、手焼きしたせんべいです。袋から出すと、しばし見とれてしまうほどの美しさ。熟練した職人さんでも、1日に1200枚ぐらい焼くのがやっとだそうです。見て楽しみ、食べて楽しむ。生菓子の世界ではよく言われることですが、焼き菓子でも、視覚と味覚をフルに働かせながら、よくばりな楽しみ方ができることを証明してくれます。 一方、「綾のかおり」は現代風。バター、チーズ、チョコレート味の生地を、伝統的な焼き型を用いて焼くことで、表面にみやびな紋様を刻みます。焼き型の数は、120種類を超えているといいます。

 「うちの家訓は、『のれんは守るものではなく興すもの』。常に最高のお菓子作りをしています」と代表取締役社長の野村泰弘さん。

 優雅なひとときを楽しませてくれる、日本の伝統的スイーツ、「せんべい」。そこには、今も昔も変わらない、職人さんたちの情熱がこめられています。(関西スイーツ代表/三坂美代子)

【写真説明】せんべいの表面には美しい絵柄や紋様がほどこされている