【産経新聞社】大阪甘味(スイーツ)図鑑(2012.3.17朝刊)

楽せんべい本舗の「文楽せんべい」

=口の中でホロリ懐かしい味=

大阪発祥の伝統芸能「文楽」は大阪を象徴するモチーフとしてよく使われる。「文楽せんべい」は文楽人形の首(かしら)の焼き印が入ったせんべい。「昭和 25年、芝居好きだった創業者が『大阪名物をつくりたい』と考案したんです」。3代目の村上弘平常務(37)が言う。当時人気だった日本美術院の日本画 家、仙波久栄氏(故人)の原画を焼き印に用い、唯一無二のオリジナル商品としてこの店の“看板”となった。
見た目はいたってシンプル。新鮮な卵 と小麦粉、砂糖、はちみつを練り合わせた生地を1日寝かせ、焼き上げただけの素朴でクラシカルなせんべいだ。「パリン!」と、しっかりした歯ざわりを感じ た直後、口の中で一瞬にしてホロリと潤(ほと)びていく。そのコントラストが実に心地よい。卵とはちみつが醸し出す懐かしい風味は、カステラに通じる趣 だ。
時を経ても変わることなく、庶民的な味わいのまま今に受け継がれてきた。添加物を含まないこのスタイルこそが、現代人のニーズにピタリとマッチしている。

村上さんは、長い歴史を持つお菓子を後世に引き継ぎ、さらには文楽をより発展的に保存するため、若い英知と感性で「文楽せんべい」と向き合っている。今月1日には、「大阪産(もん)名品」の一つに選ばれた。
せんべいは水分が少ないと焼き上げが難しいといわれるが、「文楽せんべい」は水を一滴も使わずに卵をたっぷり入れ、さらに表面の焼き印をきれいに見せるた め、その焼き色の調整には細心の注意を払う。「熟練した職人ですら気は抜けない。季節や天気によって生地の練り具合や火加減を細かく調整する」と、村上さ ん。「文楽」の演目や登場人物の話が弾み、一枚、また一枚…と、つい手がのびる。
(文と写真 「関西スイーツ」代表・三坂美代子)

【もうひとこと】
演目の「さわり」の部分を表面に記した「さわり集」は卵の黄身だけを使用。少し分厚くて歯触りが軟らかく、一層濃厚な味わいです。

【住  所】大阪市生野区新今里1の17の5
【電  話】06・6752・6356
【営  業】午前9時?午後5時(日・祝日定休)
【最寄り駅】地下鉄今里駅、近鉄今里駅


産経関西 スイーツ物語 2012.3.17

msn産経ニュース 2012.4.7.10:00