【産経新聞社】大阪甘味(スイーツ)図鑑(2012.9.15朝刊)

【大阪甘味図鑑】本家小嶋の「芥子餅」

生地と餡 室町から伝わる技

創業は室町時代の天文元(1532)年というから歴史は古い。現在は20代目となる小嶋功勝(のりかつ)さん(66)が、代々店主の名である「小嶋 吉右衛門」を継承している。諸外国との貿易港として栄えた堺の街で小嶋家は貿易を生業(なりわい)とし、アジア諸国から漢方薬を輸入していた。
それらを 使って菓子を作り始め、これが茶席で受け入れられたため、今日まで続くロングセラーとなった。「お菓子がシンプルで飾りがなく、季節感もないのが良いので しょう」と小嶋さん。 堺ゆかりの茶聖・千利休も好んだとされる「芥子餅(けしもち)」は著名人のファンも多い。店内の暖簾(のれん)の上 に掲げられた大きな額は“ラストエンペラー”愛新覚羅溥儀(あいしんかくらふぎ)の秘書官長、荘炳章(しょうへいしょう)の書である。溥儀は荘を通じてこ の菓子を入手していた。阪急グループ創始者の小林一三もファンの一人だったという。

文化人との関わりも深く、包装紙は夏目漱石の「吾輩は猫である」の挿絵画家として有名な明治期の洋画家、中村不折の作だ。堺の港がダイナミックに描かれている。「堺名産」の文字も不折の書である。

直径4センチの玉。丹念に練り上げた、ほんのり甘いこし餡(あん)がきめ細やかな求肥で包まれ、さらにその上から芥子の実がまぶされている。白く粒のそ ろった芥子の実が、表面に均一感をつくり出している。適度な甘みが施された生地と中の餡が絶妙な調和を保ち、これを生み出す技が室町時代からの伝統の秘法 とされている。

プチプチとした食感の芥子の実が表面にまんべんなくまぶされているため、どこを食べても香ばしさと歯ざわりの良さに出会え る。また、餡がほどよい柔らかさに仕上げられ、一緒に食べるとすぐさま生地と一体化する。やがて芥子の実からあふれ出すまろやかな脂質が生地に浸透する と、口解けの良さが加速する。

箱売りにはニッキ味の餅も入る。ニッキ特有のクセのある香りだが、食べてみると意外に気にならない。こし餡に清涼感を与え、軽い口当たりが何ともすがすがしく、後味もさっぱりしている。

小嶋さんは30歳を過ぎるまで大学で応用科学の研究や指導を手がけていたという。芥子餅のおいしさの秘密や薬効について科学的に説明できるはずだが、おく びにも出さない。二十代目吉衛門に求められているのは永遠不変の味の伝承であり、菓子作りへの真摯(しんし)な姿勢なのだ。

(文と写真「関西スイーツ」代表・三坂美代子)
「芥子餅」は1個115円。15個入り箱2047円、20個入り箱2677円

【もうひとこと】
ちょっと硬くなっても少し温めるとおいしく頂けます。火鉢に網を置いて炙(あぶ)るといいそうです。

【住  所】堺市堺区大町西1の2の21
【電  話】072・232・1876
【営  業】午前9時~午後6時(なくなり次第終了、月曜定休)
【最寄り駅】南海本線堺駅、阪堺線宿院駅


産経関西 スイーツ物語 2012.9.15